設計の手間は、床面積の何乗で増えるか

事務所1,000㎡、総合・構造・設備を全部頼む条件で、1,925.70人・時間。

前回見せた設計料の計算ツールで、最初に出てくる数字です。この数字は、表から引いたものではありません。床面積を1本の式に入れて出しています。

今回は、この「床面積から人・時間が出るところ」を分解します。

目次

式は1本、係数は2つ

国の「官庁施設の設計業務等積算要領」は、新築設計の標準的な手間を、次の式で出すことにしています。

A = a × S^b

Aが業務人・時間数、Sが床面積です。aとbは、建物の種類ごとに要領の表(別表1-1)に載っている係数です。

aは手間の大きさの基準、bは面積が増えたときの手間の増え方を決めています。bが1なら、面積が2倍で手間も2倍。bが1より小さければ、面積ほどには手間が増えません。

事務所(第四号 第1類)の総合は、a=2.618、b=0.8833。bが1より小さいので、面積が増えるほど1㎡あたりの手間は下がっていきます。

床面積業務人・時間数(総合+構造+設備)1㎡あたり
100㎡254.692.55
1,000㎡1,925.701.93
10,000㎡15,222.151.52

面積が10倍になると、手間は7〜8倍。小さい建物ほど、1㎡あたりの手間は重くなります。これは以前、新築設計の設計料の記事で書いた実感と同じ向きです。

係数を決める鍵は3つ

aとbの組は、建物ごとに1つではありません。3つの鍵で決まります。

1つ目は類型です。第一号の車庫・倉庫から、第十二号の公民館・図書館まで、建物の用途で分かれています。

2つ目は類。同じ類型の中で、手のかかり方で第1類と第2類に分かれます。事務所なら、一般の事務所が第1類、庁舎や本社ビルが第2類です。

3つ目は分野。総合・構造・設備で、それぞれ別のaとbを持っています。

類型と類の組み合わせが21区分、分野が3つ、それに設計と工事監理が別の係数です。係数の数を数えると、全部で300個になりました。ツールは、この300個を要領の表の並びのまま持っています。

同じ形の引き出しが縦横に並んだ棚。いくつかの引き出しに小さな札が差してある

表を引くのではなく、式で持つ

設計料の基準には、面積ごとの手間を並べた表もあります。告示第8号の略算表です。区切りの面積ごとに人・時間が載っていて、そのあいだの面積は、前後の値を直線でつないで読むことになります。

このツールは、表を使っていません。持っているのは要領の係数aとbだけで、面積を入れるたびに式で計算します。

理由は、確かめやすさです。表を持つと、写す数字は面積の区切りの数だけ、類型と分野の数を掛けて増えていきます。区切りのあいだを直線で読めば、式の曲線とは少しずれます。

係数で持てば、ツールの中の数字は要領の表と1対1で突き合わせられます。300個を1個ずつ照合すれば、それで終わりです。

一般の人から「設計料って、だいたいどのくらい?」と聞かれたとき、大まかな金額をすぐに示せない。それが、このツールを作ったほうがいいと思ったきっかけでした。どんな面積を言われても同じ手順で答えを出すには、区切りのある表より、面積をそのまま入れられる式のほうが合っていました。

ここで1つ訂正があります。以前、このツールを最初に紹介した記事で、「略算表を引いて線形補間している」と書きました。これは誤りで、当時の版も式で計算していました。分解してみて、自分の書いた説明のほうがずれていたことに気づきました。

画面には、分野ごとに a、b と計算結果を並べて出しています。電卓があれば、同じ数字に自分でたどり着けます。

事務所1,000㎡の算定結果の内訳。総合・構造・設備ごとに a×S^b の式と人・時間が並ぶ

設備だけは、面積より速く増える

係数を並べてみて、気づいたことがあります。

事務所の設備は、b=1.0615。1を超えています。面積が10倍になると、設備の手間は10倍を少し超えて増えるということです。総合(b=0.8833)や構造(b=0.7672)とは、増え方の向きが違います。

その結果、全体に占める設備の割合は、面積とともに大きくなります。

床面積設備の人・時間全体に占める割合
100㎡28.4611%
1,000㎡327.8917%
10,000㎡3,777.6825%

100㎡の事務所では、設備は1割ほど。10,000㎡では4分の1です。

実務では、意匠の設計事務所が設備の設計事務所に見積を取って進めることが多いと思います。ただ、設備設計の事業者は数が足りず、受けきれないほどの事業量になっていて、近年は単価が上がっています。それでも設計の業務人・時間そのものは変えられないので、係数のほうで重みづけしているのではないか、と感じています。

小さな建物と大きな建物の断面。大きい方だけ、天井裏と機械室に配管とダクトが密に詰まっている

第1類と第2類の関係も、係数を並べると見えてきます。事務所と庁舎では、bが3分野とも同じで、aだけが違います。つまり庁舎は、どの面積でも事務所の一定倍です。総合で1.62倍、構造で1.30倍、設備で1.60倍。手のかかり方の差を、増え方ではなく大きさで表しているということです。

式が切り替わるところ

1本の式と書きましたが、例外があります。

事務所の第2類(庁舎など)と、共同住宅(第六号 第1類)は、20,000〜30,000㎡のあいだだけ、式が A = a × S + b の直線に変わります。30,000㎡を超えると、また別の係数の累乗の式に戻ります。

面積の区分で式ごと切り替わるので、境目で数字が跳ねないかを確かめました。庁舎で試すと、19,999.99㎡と20,000㎡の合計は44,950人・時間台でほぼ同じ。30,000㎡の境目では、超えた側が0.9人・時間だけ小さくなりますが、5万人・時間を超える中の0.9です。直線の式は、前後の曲線をつなぐ役目をしていると読めます。

ツールでは、この切り替えを1か所の関数にまとめました。類型の表に「この類型は区分で式が変わる」という印を付けておき、面積を見て使う係数の組を選びます。画面の側は、どの式を使ったかを気にせずに済みます。

適用範囲の外は、止めずに知らせる

係数には、使ってよい面積の範囲があります。事務所の第1類なら100〜50,000㎡、総合病院なら4,200〜100,000㎡。式は範囲の中のデータから作られているので、外に出た値は保証されません。

ツールは、範囲の外の面積を入れても計算を止めません。結果は出したうえで、範囲外であることを警告します。

実務で範囲の外を算定したことは、まだありません。というより、範囲の外に出ていても気づきにくいのだと思います。だから計算は止めずに、「こういう懸念があります」と知らせる形にしました。

自分の表に当てはめるなら

自分が使っている計算の表を開いて、1つ確かめてみてください。

その表の数字は、基準に載っている数字そのものですか。それとも、基準の式から誰かが計算して並べた数字ですか。

後者なら、その数字を原文と突き合わせることはできません。持つべきは元の数字で、途中の計算は画面で見せればいい。そうしておけば、基準が改定されたときも、差し替えるのは係数だけで済みます。

次は、この人・時間から「頼まない業務」を外すところを分解します。


参照:官庁施設の設計業務等積算要領(令和6年改定・令和6年3月26日 国営整第210号)別表1-1 https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001733718.pdf

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