解体の設計料は、工事費では決まらない

建物を壊す見積りを取ると、たいてい坪いくらで返ってきます。金額そのものは地域によって違いますが、「高くなった」という感覚のほうは、どこでも共通ではないでしょうか。

実際に上がっています。公共工事設計労務単価は、令和8年3月から適用する改定で全国全職種の加重平均が25,834円。平成24年度と比べると +94.1% です。ほぼ倍になっている。法定福利費相当額を加算した平成25年度の改定から数えて、14年連続の引き上げです。解体はほとんどが人手でできている工事なので、この線に沿って動きます。

そこに石綿(アスベスト)があれば、処理費が本体の倍以上乗ることもあります。

では、その解体を設計する側の手間も、同じだけ増えたのか。ここが合っていないというのが、今回の話です。

目次

解体には、引ける表がない

新築の設計料は、告示の略算表で引けます。床面積と用途を決めれば人・時間が出てくる(004)。耐震診断と耐震改修設計には、別の告示に表が用意されています(007)。

改修は、その表では引けません。

略算方法は、建築物の新築を行う場合が前提。このため、増改築・用途変更等の場合の報酬算定に適用することはできない。

ただし改修には、代わりの数え方がありました。官庁施設の設計業務等積算要領に、換算図面1枚あたり13.567人・時間という係数が置かれている。図面の枚数で数える、という物差しです(005)。

解体には、そのどちらもありません。略算表の行がなく、要領にも算定の規定がない。設計料を引ける表を持たない業務種別です。

数える基準は、工事の側にだけある

一方で、解体「工事」の数量をどう数えるかという基準は、かなり細かく決まっています。

対象数える単位
RC造・SRC造の躯体躯体体積 ㎥
S造・木造の上屋延床面積
基礎基礎体積 ㎥(木造は1階床面積)
内装材床面積
屋根・舗装材舗装面積
樹木高木は1本ごと
石綿レベル1・2(吹付け材・保温材等)部屋別
石綿レベル3(成形板)部位別・種類別

樹木まで、高木は1本ごとに数えることになっている。石綿も、発じん性のレベルによって部屋別と部位別を使い分ける。壊す量のほうは、ここまで決まっています。

決まっていないのは、それを拾う人の手間のほうです。

ところが、その基準どおりに拾う人がいない

もっとも、基準があることと、基準どおりに数えられていることは別の話です。

発注する側に、解体の数量を拾える職員はまずいません。職員の数自体も減っています。だから実際には、事業者に見積もらせることになる。設計事務所のほうも、解体事業者に見積を取って、だいたいの数字で出しているのが実情だと思います。

理由のひとつは、実施数量が実績でも拾えることです。壊してしまえば、出た量は分かる。新築のように、着工前に数量を確定させなければ進まない、という圧力が働きません。

つまり解体は、工事費も設計料も「だいたい」で回っている業務です。

そのなかで、法令だけが厳密になっています。

厳密なのは、法令の側

建設リサイクル法では、建築物の解体は床面積の合計 80㎡以上 が対象工事になります。届け出るのは施工者ではなく発注者で、工事に着手する7日前までに、分別解体等の計画等を都道府県知事へ届け出なければなりません。

石綿のほうは、令和2年6月5日に公布された大気汚染防止法の改正から、段階的に厳しくなりました。

  • 令和3年4月1日 ── 解体等工事の事前調査が義務
  • 令和4年4月1日 ── 調査結果の報告が義務(建築物の解体は80㎡以上、改修は請負代金100万円以上)
  • 令和5年10月1日 ── 有資格者(建築物石綿含有建材調査者)による調査が義務

偶然ですが、建設リサイクル法の届出も、石綿の調査結果の報告も、解体では80㎡が線になっています。つまり、ごく小さな建物を除けば、壊すときには必ず調査と届出が付いてくる。

そして、この調査のほうに手間が乗っています。

手間は、図面ではなく調査に移った

発注する側で見ていると、次のようなことが起きます。

調査費が、工事費とは別建てで予算を食います。設計費でも工事費でもないものが増えるので、予算要求の段階で、これが何なのかを説明しなければならない。

図面のない建物では、何が使われているかを現地で見るしかありません。古い建物ほど図面が残っておらず、古い建物ほど石綿の可能性が高い。手間のかかる順番と、情報の少ない順番が一致しています。

そして調査の結果が出る前に、予算は組まなければなりません。処理費が見えないまま、推定で数字を作ることになります。

改修は、図面の枚数で数えられました。同じ物差しに解体を乗せるとどうなるか。私が民間にいたころも、現場を調査して見積を出すのは解体事業者で、設計側が用意する図面は、面積と位置が分かる程度のものでした。数枚しかない。枚数で数えれば、限りなくゼロに近づきます。

けれど手間がゼロになったわけではありません。図面から調査へ移っただけです。解体の手間は、図面の枚数ではなく、建物のわからなさに比例します。

だから、工事費に連動させてはいけない

表がないと、工事費の何%、という決め方をしたくなります。

これが解体では具合が悪い。労務単価が倍になった分も、石綿の処理費が本体の倍以上乗った分も、そのまま設計料に反映されてしまいます。処理費が膨らんだのは飛散防止の養生と濃度測定が増えたからであって、設計の図面が倍になったからではありません。

設計者の単価が上がること自体は当然で、それは技術者単価のほうで反映されます。問題は、単価ではなく人・時間まで工事費に連動させてしまうことです。

告示が示している算定方法は、もともと2つあります。

  • 略算方法 ── 業務報酬 = 直接人件費 × 2.1 + 特別経費 + 技術料等経費 + 消費税相当額
  • 実費加算方法 ── 業務報酬 = 直接人件費 + 直接経費 + 間接経費 + 特別経費 + 技術料等経費 + 消費税相当額

略算が使えない以上、解体は実費加算で、人・時間を自分で積むしかありません。

技師(C)の単価42,500円/日(令和8年3月適用)を8時間で割ると、1時間あたり5,312円。諸経費等を含めた2.1倍で、約11,156円です。100人・時間なら約112万円。技術料等経費・特別経費・消費税は含まない、下限の目安です。

この100という数字に根拠を付けられるかどうかが、そのまま報酬の根拠になります。表がないというのは、金額が自由だということではなく、説明の責任が全部こちらに来るということです。

数字を持っているのは、現場を見た人

ここまで書いてきて、ひとつ気づくことがあります。

解体でいちばん正確な数字を持っているのは、実際に壊した人です。実施数量は実績で拾える。見積りを出す事業者は現場を調査している。設計側が持っているのは、面積と位置が分かる程度の図面です。

設計料の欄が見積書にないのは、工事費に溶けているからというより、数えている場所がそもそも違うからだと思います。

新築では、数える側と作る側が分かれていました。解体では、数える側が作る側に寄っています。そして発注する側は、拾える人を減らしながら、その数字を受け取っている。

耐震診断の話の最後に、これから必要になるのは劣化度調査で、その数え方はまだ誰も表にしていない、と書きました(007)。解体も同じ場所にいます。建てる仕事より、減らす仕事のほうが増えていく時期に、数え方だけが用意されていない。

表がないことは、いくらでもいいということではありません。数え方を持っている側が、金額の説明を持つことになります。


参照:令和6年国土交通省告示第8号/国土交通省「改正業務報酬基準説明会説明資料」(令和6年)/「官庁施設の設計業務等積算要領」(令和6年3月26日改定)/国土交通省「令和8年3月から適用する公共工事設計労務単価について」(令和8年2月17日)/建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律(建設リサイクル法)/大気汚染防止法の一部を改正する法律(令和2年6月5日公布)/石綿障害予防規則/解体工事の数量積算基準/「令和8年3月から適用する設計業務委託等技術者単価」(2026年9月23日参照)

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