作り直す前に、ツールに決めさせないものを決めた

前の版の計算ツールは、床面積を入れて「算定実行」を押すと、最後の行に金額が出ました。人・時間に単価を掛け、端数を丸め、設計料として1つの数字になる。便利でした。

全国版では、その最後の行を出さないことにしました。ツールが出すのは、人・時間までです。

前回は、台帳をどこに置くかの話でした。今回は、作り直しを始める前に引いた線の話です。何をツールに決めさせて、何を人の手に残すか。

目次

ボタン1つで、金額まで出ていた

前の版には、新築・改修・監理・耐震・解体のタブがあり、どのタブも「算定実行」を押すと金額まで出ます。途中の人・時間も単価も係数も、画面には並んでいます。それでも、目に入るのは最後の数字です。印刷すれば、算定書のいちばん下に金額が来ます。

計算が合っているかどうかとは、別の問題です。数字は、出た瞬間から、それを出した前提と切り離されます。

算定書の束の上で、いちばん下の1行だけが明かりに照らされ、上の行は影に沈んでいる

概算は、前提を置いて歩き出す

事業のいちばん手前、基本構想の段階では、規模も仕様もまだ決まっていません。それでも数字は求められます。財源の関係で、早い段階から事業費をはっきりさせるよう求められることも多くあります。

そこで出した概算が、そのまま予算の枠になる。これは、しばしばありました。

概算として出したときには、前提がありました。床面積は仮の値で、単価はその年度のもので、係数は標準の値です。ところが予算の枠になった時点で、前提は落ち、金額だけが残ります。あとで規模が変わっても、枠のほうは動きません。

ボタン1つで金額が出るツールは、この独り歩きを速くします。計算した本人は「これは仮の数字だ」と分かっていても、印刷された金額は仮には見えません。

付箋をはがされた1枚の紙が、机から廊下のほうへ1人で滑っていく。付箋は机に残っている

ツールに決めさせないもの

作り直しを始める前に、前の版の機能を1つずつ見直しました。消したものは多くありません。変えたのは、その数字を誰が決めるかです。

前の版全国版
解体は、工事費から表を引いて人・日が出る表は参考として見せるだけ。人・時間は人が入れる
県の要領の補正が、コードに入っている補正の欄だけを用意する。値と根拠は使う人が入れる
監理の「標準設定」を押すと、委託する業務が決まる押すと案が入るだけ。確定は人がチェックを付ける
単価がコードに書かれている国土交通省が毎年公表する単価を、年度と出典と一緒に持つ

解体の表は、第1部で分解したとき、出どころを確かめられませんでした。県の補正は、自分の県のものなら根拠を言えますが、他の県の要領まで追うことはできません。「標準設定」は、押しただけで係数が決まり、誰がそう判断したのかが残りません。

どれも、計算そのものは間違っていません。ただ、出てきた数字について、作った自分が責任を持てない。前提を知っているのは使う人のほうです。だから、その数字は使う人が入れる形にしました。

単価だけは、ツールが持ちます。国土交通省が毎年公表している設計業務委託等技術者単価(技師Cなど)を写しているだけで、自分で決めた数字ではないからです。年度と出典が一緒に残っていれば、誰が見ても同じものを指せます。

作業台の上で、目盛りの入った定規は台に固定され、隣の空欄の用紙には鉛筆が添えられている

いちばん手前で止めるのは、金額

全国版では、金額の欄そのものを出さないことにしました。画面に出すのは、業務ごとの人・時間と、その合計です。

人・時間と単価がそろっていれば、掛け算は誰にでもできます。それでも、ツールの側では掛けません。実務の金額は、式で出した数字だけでは決まらないからです。参考の見積りを取り、ほかの案件と比べながら、詰めていきます。ツールが最後の行に金額を出せば、その詰めていく途中を飛ばして、答えが先に出てしまいます。

告示第8号が数えているのは人・時間で、金額は最後に換算した結果にすぎないと、前に書きました。ツールも、その換算の手前で止めます。

外に出す設計書も同じ扱いにします。金額は書きません。ただ、人・時間とその内訳は出します。受け取った相手が見積りを組むには、どの業務にどれだけの手間を見込んだのかが分からなければ、算定のしようがないからです。渡すのは答えではなく、答えを出すための根拠です。

第1部の最後では、全国版の台帳に単価と年度を持たせ、金額を「結果として」最後に置くと書いていました。作り直しを始める前に、ここを考え直しました。結果として置いた金額でも、印刷されれば金額として歩き出すからです。

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決めさせないものを決めたら、残すものが決まった

ツールに決めさせない数字は、人が入れます。人が入れた数字に、誰が、何を根拠に入れたのかが付いていなければ、前の版の金額と同じように独り歩きします。

だから全国版の台帳は、金額ではなく、人・時間と、人が入れた値の根拠を中心に組むことになります。次回は、台帳の主役を金額から人・時間に替えた話です。

1冊の帳面の各行に、小さな砂時計の印と短い付箋が並んで貼られている。金額の欄はない

自分のツールの、最後の行を見てください

仕事で使っている計算シートを、1つ思い浮かべてください。最後の行には何が出ていますか。

それが金額なら、その金額を出すまでに置いた前提は、同じ紙に残っていますか。紙だけが誰かに渡ったとき、受け取った人はその前提を知ることができますか。

残っていないなら、計算が正しくても、数字は前提を置いて歩き出します。最後の行を1つ手前で止めるだけで、渡すものは答えから根拠に変わります。


参照:令和8年3月から適用する設計業務委託等技術者単価(国土交通省、令和8年2月17日)

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