設計料の計算ツールを作って、一か所だけ自動化しなかった

設計事務所から見積書が2通届いて、金額が2割違っていた。どちらかが高すぎるのか、それとも数えているものが違うのか。この判断がつかないまま、安いほうを選んでしまう場面があります。

この2割という数字、実は国が示している算定例の中にそのまま出てきます。用途も床面積も業務範囲も同じ条件で、10,740と12,858。同じ表を使い、同じ式で計算して、この差が出ます。

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同じ条件で、2割の差が出る

設計料の算定は、令和6年国土交通省告示第8号で方法が決まっています。略算方法という簡便なやり方があって、式はこうです。

業務報酬 = 直接人件費 × 2.1 + 特別経費 + 技術料等経費 + 消費税相当額

直接人件費は、業務量(業務人・時間数)に人件費単価を掛けたもの。つまり最初に決まるのは金額ではなく、何時間かかる仕事かという量です。

国交省の説明資料には、事務所・床面積5,000㎡・標準業務をすべて実施という条件の算定例が載っています。難易度係数に該当しないと判断した場合が10,740業務人・時間。同じ建物で、総合・構造・設備それぞれについて該当すると判断した場合が12,858業務人・時間。差は2,118人・時間、約2割です。

割れているのは計算ではありません。略算表の数字も、2.1という倍数も、誰がやっても同じです。割れるのは「この敷地は特殊な敷地に当たるか」という、たった一つの判断だけです。

表を引く作業に、判断は要らない

告示の別添三には略算表が付いていて、建物の用途を15の類型に分け、それぞれ床面積の区分ごとに標準業務人・時間数が示されています。しかも総合・構造・設備の3分野、設計と工事監理等の2区分に分かれている。数字の数はかなりのものです。

表に載っていない床面積の場合は、前後の区分から線形補間します。2,000㎡と3,000㎡の値が分かっていれば、2,500㎡はその中間として求める、というやり方です。

この一連の作業に、判断の余地はありません。手で引けば必ず速さでも正確さでも負けます。行を一つ読み違えれば結果が変わりますし、読み違えたことに後から気づく手立てもない。

なので、ここは機械に渡しました。HTMLファイル1枚のツールで、用途と床面積を入れると業務人・時間数が出ます。画面としては地味なものです。

一か所だけ、チェックボックスにして残した

難易度係数だけは、自動判定にしませんでした。

難易度係数は、標準的でない条件がある場合に業務量を割り増すための数字です。令和6年の改正で、該当する観点が複数あるときは該当する全ての係数を乗じられるようになりました。改正前は一つだけを選ぶ方式でした。加算ではなく乗算なので、判断が一つ増えるたびに結果が跳ねます。

そして告示が示しているのは、あくまで例示です。著しい高低差のある敷地、崖地などの特殊な立地、上下階で用途が異なる建物、軟弱地盤で液状化のおそれがある場合、免震建築物、省エネルギー性能指標が高い水準を求められる設備計画。こうした場面が挙げられているだけで、目の前の敷地がそれに当たるかどうかは、設計者が判断します。

しかも分野ごとに扱いが違います。特殊な敷地上の建築物という同じ理由でも、構造は設計に1.13・工事監理等に1.25が設定されている一方、総合は工事監理等にだけ1.30が設定されていて、設計側には係数がありません。表面だけ見て機械的に掛けると、掛けてはいけないところに掛けてしまいます。

ここを自動で判定させると、根拠のない数字が根拠のある数字の顔をして出てきます。それが一番まずい。

問いの立て方を変えた

残すと決めたうえで、チェック項目の文言を変えました。

係数の名前をそのまま並べるのをやめて、事実を聞く言葉に置き換えています。「特殊な敷地上の建築物か」ではなく「敷地に著しい高低差があるか」。前者は判断を求める問いですが、後者は現地に立てば答えが決まる問いです。

そしてチェックした項目が、そのまま算定の根拠として出力に残ります。半年後に「なぜ1.13を掛けたのか」と聞かれたときに、係数の名前ではなく敷地の状態で答えられる。

このツールは、計算を速くするために作ったものではありません。根拠を残すために作りました。速くなったのは副産物です。

数字の高い安いは、根拠を見ないと決まらない

冒頭の2通の見積書に戻ります。2割の差そのものは、高いとも安いとも言えません。見るべきなのは金額ではなく、その手前です。

金額の前に業務人・時間数が示されているか。難易度係数を使っているなら、その理由が「複雑だから」ではなく建物や敷地の側の事実で書かれているか。そして、改修や増築の案件に略算方法が使われていないか。略算方法は新築を前提とした方法で、増改築や用途変更には適用できないと告示の解説にはっきり書かれています。

根拠が書いてある見積書は、後から検証できます。書いていない見積書は、安くても高くても検証できません。差が出たときに比べられるのは、金額ではなく根拠のほうです。

作るときも同じでした。判断が入らない部分と入る部分を先に分けたから、どこを機械に渡していいかが決まりました。順番が逆だと、たぶん全部を自動化しようとして、説明できない数字を出すツールになっていたと思います。

参照

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