「工期を3か月延ばします」
工事が動き出したあとに、この連絡が来ることがあります。資材が入らない。近隣との調整が長引いた。掘ったら図面にないものが出てきた。理由はさまざまですが、決まってからやることは同じです。工程表を引き直し、定例の日程を組み直し、現場に通う期間が3か月延びる。
このとき、工事監理の契約金額は動きません。
公共の積算では、事務所1,000㎡の工事監理等を840人・時間としています。この840という数字は、工期が12か月でも18か月でも840のままです。

13%のうち、監理は5%程度
設計料は工事費の13%前後、内訳は設計8%・監理5%。設計事務所で仕事をしていた人なら、一度は聞く数字だと思います。
この内訳は、告示第8号の略算表にも対応するものがあります。用途と床面積から標準的な業務量(人・時間)を引く表ですが、実はこの表、(一)設計 と (二)工事監理等 が別の行に分かれています。
事務所(告示の別表では業務施設・第1類)で並べると、こうなります。
| 延床面積 | 設計 | 工事監理等 | 計 | 監理の割合 |
|---|---|---|---|---|
| 100㎡ | 251 | 157 | 408 | 38.5% |
| 300㎡ | 661 | 351 | 1,012 | 34.7% |
| 1,000㎡ | 1,840 | 840 | 2,680 | 31.3% |
| 3,000㎡ | 4,990 | 1,890 | 6,880 | 27.5% |
| 10,000㎡ | 15,100 | 4,470 | 19,570 | 22.8% |
単位は人・時間。総合・構造・設備を合計したものです。
設計8%・監理5%ということは、13のうち監理が5。割合にすると38.5%です。表を見ると、それと一致するのは100㎡の行だけでした。
建物が大きくなるほど、監理の取り分は小さくなり、10,000㎡では22.8%まで下がります。%の内訳もまた、小さな建物の比率でした。
工事監理は「照合と確認」の業務
そもそも工事監理とは何をする業務か。建築士法の定義は、その者の責任において、工事を設計図書と照合し、それが設計図書のとおりに実施されているかいないかを確認すること、となっています。
作ることではなく、確かめること。現場を仕切る施工管理とは、立っている側が違います。
告示が定める工事監理の標準業務も、この線に沿って並んでいます。
工事監理方針の説明等/設計図書内容の把握等/設計図書に照らした施工図等の検討及び報告/工事と設計図書との照合及び確認/工程表の検討及び報告/工事監理報告書等の提出 ほか令和6年国土交通省告示第8号(工事監理に関する標準業務)
どれも「工事が動いていること」が前提の業務です。施工図が出てくるから検討する。工事が進むから照合する。設計のように、描き上げれば終わりという形になっていません。
工事監理は、工事に張り付く業務です。素直に考えれば、工期が長くなれば手間も増えるはずです。
それなのに、表に工期が出てこない

ところが、さきほどの略算表に工期は出てきません。決まるのは用途と床面積だけです。
事務所1,000㎡の工事監理等は840人・時間。ここから金額を出して、工期だけを動かしてみます。
条件は前の2本と同じです。人件費単価は設計業務委託等技術者単価の技師(C)42,500円/日(令和8年3月適用)を8時間で割ったもの、諸経費等を含めて2.1倍。技術料等経費・特別経費・消費税は含めない下限の目安で、総額は約937万円です。
| 工期 | 月あたりの人・時間 | 月あたりの報酬 |
|---|---|---|
| 6か月 | 140 | 約156万円 |
| 12か月 | 70 | 約78万円 |
| 18か月 | 47 | 約52万円 |
| 24か月 | 35 | 約39万円 |
同じ建物、同じ監理、同じ840人・時間。総額の937万円も動きません。動いたのは工期だけで、それでも月あたりで見ると4分の1になります。
国は、それを原則として書いている
これは告示の書き落としではありません。工期が算定に影響しないことは、原則として明示されています。
令和8年3月27日、国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課から「工事監理業務における対象工事の工期が延長した場合の業務委託料について」という事務連絡が出ています。そこでは、工期は業務委託料の算定に影響しないため、工期が延びたこと自体は委託料を変更する根拠にならない、とされています。
つまり、工期は最初から変数に入っていない。延びても動かないのは当然、という立て付けです。
では、なぜそうなっているのか。
監理の手間は、時計で測ると短い

ここからは、数える側に回ってみた感覚の話です。
まず、工期そのものが定量化されていません。中央建設業審議会の「工期に関する基準」(令和2年7月20日決定、令和6年3月27日最終改定)は、工期の決め方を式では示していません。
本基準は、適正な工期の設定や見積りにあたり発注者及び受注者(下請負人を含む)が考慮すべき事項の集合体であり、建設工事において適正な工期を確保するための基準である。工期に関する基準 第1章4(本基準の趣旨)
降雨日、休日、搬入時間の制限、行政手続の期間。要素は列挙されていますが、そこから工期が出てくる式はありません。日本建設業連合会の「建築工事適正工期算定プログラム」もありますが、これは業界団体の目安で、国の基準ではない。
入力値そのものが確定しないものを、報酬の算定式に組み込むのは難しい。
もうひとつは、監理の手間が時間で測りにくいことです。
監理の実作業──立会、書類のチェック、施工図の確認──は、実質の時間だけを積むと意外に短くなります。長いのは、そこに至るまでの往復のほうです。しかも、行ってみたら前段取りが終わっておらず確認できなかった、という無駄足がそれなりに混ざる。
その移動は、業務人・時間数に入りません。交通費のほうは積算基準で拾えます。
直接経費は、印刷製本費、複写費、交通費等設計業務等に関して直接必要となる費用(特別経費を除く。)の合計額とする。官庁施設の設計業務等積算基準 3.2(2)
費用としては計上できる。ただし競争入札で価格を争う場面では、その内訳が表に出てくることはまれです。そして移動に費やした時間は、そもそも拘束時間として数えられていません。
では設計事務所から見積を取れば実態が分かるかというと、これも難しい。同じ案件でも出てくる数字のばらつきが大きすぎて、比較の物差しになりません。
工期は数式にならない。実作業の時間は短く出る。移動は数えない。見積もりはばらつく。
数えられるものが床面積しか残らないので、床面積で決めている。略算表が面積だけで組まれているのは、手抜きというより消去法の結果だと思っています。
数えるものが、工期から「重複」に変わる
では、延びた分は泣き寝入りなのか。さきほどの事務連絡が整理しているのは、そこから先です。
追加で計上することが合理的とされているのは、監理の対象そのものが増えた場合と、同じ業務をもう一度やる羽目になった場合です。
- 対象となる建物、工事内容、工事工程が増えた
- 当初から追加業務として計上していた業務の量が増えた
- 設計図書の内容の把握、施工図等の検討及び報告、工程表の検討などが重複して必要となった
逆に、工事の中止や敷地の引渡し延期に起因するもので、監理の業務量に影響がないことが明らかな場合は、対象外とされています。
数えているのは、現場にいた期間ではありません。同じ検討を何回やり直したか、です。
これは実感とも合います。工期が3か月延びたこと自体より、その3か月のあいだに工程表を3回引き直し、施工図を差し替えのたびに見直したことのほうが、手間としては重い。
だとすると、監理の見積もりを見るときに聞くべきことも変わります。「何か月の現場ですか」ではなく、「延びたときに、どの業務をやり直すことになりますか」。契約の前にここを決めておけば、延びてから揉めずに済みます。
改修に至っては、式そのものがない
ここまでは新築の話です。改修の設計料は工事費ではなく図面の枚数で決まる、というのが前回でした。では改修の工事監理はどうか。算定式が用意されていません。
一般業務に係る業務人・時間数は、契約図書等に定められた業務内容に基づき、工期、改修工事の内容(工事種目、工種数等)、規模(対象面積・階数等)、施工条件(入居者の有無、作業時間の制約等)等の条件を勘案して算定する。官庁施設の設計業務等積算要領 6.3(改修工事の工事監理業務の一般業務に係る業務人・時間数の算定)
勘案して算定する、とだけ。ここには工期が要素として挙がっていますが、式はありません。
新築の監理は、面積から引ける代わりに工期が入らない。改修の監理は、工期を考慮していいと書かれている代わりに、引く表がない。どちらも、現場に通った時間を数える方法を持っていない点では同じです。
工事監理の報酬に、工期は影響しない。それは制度がそう決めているというより、工期に張り付く手間を数える物差しが、まだ誰も持っていないということだと思います。

参照:令和6年国土交通省告示第8号/国土交通省「改正業務報酬基準説明会説明資料」/「官庁施設の設計業務等積算基準」(令和6年改定)/「官庁施設の設計業務等積算要領」(令和6年改定)/国土交通省大臣官房官庁営繕部整備課 事務連絡「工事監理業務における対象工事の工期が延長した場合の業務委託料について」(令和8年3月27日)/中央建設業審議会「工期に関する基準」(令和2年7月20日決定、令和6年3月27日最終改定)/日本建設業連合会「建築工事適正工期算定プログラム」/「令和8年3月から適用する設計業務委託等技術者単価」(2026年9月13日参照)