建物の改修を相談されると、たいてい最初に伺うことがあります。「既存の図面は、残っていますか」。
新築の相談で、これに当たる質問はありません。改修だけが、設計を始める前に確かめなければならないものを抱えています。
そして公共工事の積算のルールでは、改修設計の手間は図面1枚あたり13.567人・時間として数えられています。この式に、工事費は出てきません。
新築は白紙から、改修は答え合わせから
新築の設計は、敷地と要望から形を決めていく作業です。手戻りはあっても、確かめる相手は法規と要望だけです。
改修は違います。すでに建っているものが図面どおりである、という保証がありません。
天井を開けたら想定と違う梁があった。配管の経路が図面と合っていない。過去の模様替えが図面に反映されていない。改修の設計は、こうした食い違いを一つずつ潰す作業から始まります。
ここが新築と決定的に違うところです。新築の図面は、これから作るものを描いたもの。改修の図面は、いま建っているものを確かめたうえで、変えるところだけを描いたものです。そして確かめた部分は、成果物にはほとんど表れません。
現況調査は、標準の業務に入っていない
この「確かめる」手間は、基準の上でどう扱われているか。
公共工事の設計業務の積算要領には、こう書かれています。
改修工事の設計に必要な既存建築物の設計図書を復元するための実測等の調査を実施する必要がある場合は、当該調査に要する業務人・時間数を追加業務に計上する官庁施設の設計業務等積算要領 第3章3.2(1)
追加業務、つまり標準の業務の外です。
これは、手間を認めていないという意味ではありません。むしろ逆で、案件ごとに量が違いすぎて標準に含められないから、別に数えて積みなさい、という指示です。
問題は、別に数えなければ計上されないという点にあります。図面が一式残っている建物、竣工図しか残っていない建物、何も残っていない建物では、同じ規模の改修でも設計の入口の手間がまったく違う。ここを数えないまま「改修だから新築より安いはず」と見積もりを比べると、調査の手間は誰かが無償で負担することになります。

告示第8号は、改修に略算表を使わせない
設計料の算定方法を定めた告示第8号には、建物の用途と床面積から標準的な業務量(人・時間)を引く表が付いています。略算表と呼ばれるもので、新築の設計料はここから出せます。
ただし、この表には適用範囲の限定が付いています。
略算方法は、建築物の新築を行う場合が前提。このため、増改築・用途変更等の場合の報酬算定に適用することはできない。国土交通省「改正業務報酬基準説明会説明資料」
改修は、表から引けません。使えるのは実費加算方法、つまり業務量を一から積み上げる方法だけです。
床面積という便利な物差しが使えないので、代わりの物差しが必要になります。公共の積算要領が採っているのは、図面の枚数です。
(一般業務に係る業務人・時間数)=13.567×(図面1枚毎の換算図面枚数)同 第3章3.2(2) 建築改修工事分。設備改修工事分は10.233
換算図面枚数は、1枚を基準に二つの係数を掛けて出します。
- 複雑度 ── 簡易0.6/標準1.0/複雑1.4
- CADデータ影響度 ── 発注者が既存図面のCADデータ等を提供して業務量が減る場合、0から1の範囲で図面1枚ごとに設定できる
面積でも工事費でもなく、描く図面の枚数と、その1枚がどれだけ厄介かで決まる。改修の手間の性質を、そのまま式にしたものです。
図面30枚は、新築100㎡と同じ手間
数字を入れてみます。条件は次のとおりです。
- 業務量:上の式(建築改修、複雑度は標準1.0、CADデータの提供なし)
- 人件費単価:設計業務委託等技術者単価の技師(C)、42,500円/日(令和8年3月適用)を8時間で割ったもの
- 諸経費等は直接人件費と同程度と置き(合計2.1倍)、技術料等経費・特別経費・消費税は含めない。つまり下限の目安です
| 換算図面枚数 | 業務人・時間 | 設計料(下限の目安) |
|---|---|---|
| 10枚 | 136 | 約151万円 |
| 20枚 | 271 | 約303万円 |
| 30枚 | 407 | 約454万円 |
| 50枚 | 678 | 約757万円 |
| 80枚 | 1,085 | 約1,211万円 |
この407人・時間という数字には、並べる相手がいます。
告示の略算表では、事務所を新築する場合、延床面積100㎡の設計と工事監理等を合わせた標準業務量が408人・時間です。
改修の図面30枚が、407人・時間。
新築の事務所を100㎡、設計から工事監理まで通すのと、改修の図面を30枚描くのが、ほぼ同じ手間として数えられています。しかも改修側の407人・時間は実施設計の分だけで、工事監理は入っていません。

同じ設計料が、4%にも15%にもなる
工事費との比率を出してみます。図面30枚、設計料は約454万円のまま、工事費だけを動かします。
| 工事費 | 設計料の比率 |
|---|---|
| 3,000万円 | 15.1% |
| 5,000万円 | 9.1% |
| 1億円 | 4.5% |
設計の中身は一つも変わっていません。動いたのは工事費だけです。
改修では、工事費と図面の枚数が連動しません。
屋上防水を全面やり替えるだけなら、工事費が大きくても図面は少数で足ります。逆に、間仕切りを組み替えて設備を引き直す工事は、金額が小さくても図面は何十枚も要る。防水のように面積で決まる工事と、間取りのように判断で決まる工事とでは、金額に対する図面の枚数が桁で違います。
だから改修では、工事費に対する設計料の割合が案件ごとに大きく動きます。%同士で比べても、意味がありません。

下げて受けた分は、誰かの時間で払われる
同業者と話していると、改修の話でよく出てくる不満があります。
手間がかかるのは分かっている。それなのに、会社としては「改修だから」と一律で金額を下げて受けてしまう。工事費が新築より小さいのだから設計料も下げておこう、という理屈です。
下げても、手間は減りません。減らないまま契約金額だけが小さくなるので、その差は実際に手を動かす人の時間で埋められます。現況調査に丸一日かかっても、図面が食い違って描き直しになっても、契約の金額は動かない。割に合わない、という感覚はここから出てきます。
厄介なのは、これが手抜きにならないことです。図面の食い違いを放置すれば工事が止まるので、結局は誰かが時間をかけて潰す。だから外からは、問題なく回っているように見える。無理が見えないまま、次の案件でも同じ値付けが繰り返されます。
%で値付けをしていると、この構造は見えません。見えるのは金額だけで、その裏にある人・時間が数えられていないからです。
「改修は安いはず」が、どこでズレるか
改修は新築より工事費が小さい。これは多くの場合、本当です。
そこから「だから設計料も安いはず」と続けると、ズレが出ます。工事費の小ささは、手間の小ささを意味しないからです。
改修の設計料を見るときに聞くべきことは、三つあります。
図面は何枚になりますか。 改修の設計料は枚数で決まります。枚数の見込みを答えられる設計者は、手間から値段を組んでいます。
現況調査はどこまでやりますか。誰の負担ですか。 実測や図面の復元は追加業務です。見積もりに入っているのか、別に請求されるのか、それとも調査せずに工事で対応する前提なのか。ここを曖昧にしたまま契約すると、工事中の追加変更になって返ってきます。
既存図面のデータを渡せば、下がりますか。 CADデータ影響度係数は0から1です。渡せるものがあるなら、設計料を下げる材料になります。
図面を残しておくと、次の改修が安くなる
最後の一つは、建物を持っている側の話です。
CADデータ影響度係数は、発注者が図面を提供できるかどうかで動きます。竣工図がPDFしかない、紙しかない、どこにあるか分からない。その状態は、次の改修のときに設計料として跳ね返ってきます。
改修の設計料は、工事費ではなく図面の枚数で決まる。そしてその枚数は、前の工事のときに図面をどう残したかで変わります。
建物を維持していくコストの一部は、竣工した日の書類の整理で決まっている、ということです。

参照:令和6年国土交通省告示第8号/国土交通省「改正業務報酬基準説明会説明資料」/「官庁施設の設計業務等積算要領」(令和6年改定)/「官庁施設の設計業務等積算基準」(令和6年改定)/「令和8年3月から適用する設計業務委託等技術者単価」(2026年9月12日参照)