耐震診断のほうが補強の設計より重い

大きな地震のあとには、決まって「うちの建物は大丈夫なのか」という声が上がります。耐震診断という言葉が一般に広まったのは、阪神・淡路大震災のころからでした。

ただ、公共の建物に限れば、その診断はもうひと回りしています。公立小中学校の構造体の耐震化率は 99.9%。111,799棟のうち、耐震性がないまま残っているのは93棟です(令和7年4月1日現在)。

診断をどう数えるかは、これから始まる話ではなく、一度終わった仕事を振り返る話になります。振り返ってみると、耐震診断は単独の業務としてではなく、補強設計の入口として数えられていました。

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地震のたびに、診断は義務に近づいた

耐震改修促進法が施行されたのは平成7年12月、阪神・淡路大震災の年です。この時点では、診断も改修も「努めること」でした。

その後、平成25年の改正で一定規模以上の建物は診断が義務になります。対象は要緊急安全確認大規模建築物と呼ばれ、たとえば小中学校なら階数2以上かつ3,000㎡以上、病院や店舗、体育館なら階数3以上かつ5,000㎡以上。結果は平成27年12月31日までに報告し、所管行政庁が公表する仕組みです。

診断と改修の報酬基準が告示(平成27年国土交通省告示第670号)として出たのも、同じ平成27年でした。

つまり、報酬の物差しが整ったころには、大きな公共建物の診断は終盤に差しかかっていたことになります。

診断は、単体で発注されていなかった

学校の耐震化は、実際には次の流れで進みました。

優先度調査 → 耐震診断 → 補強計画 → 実施設計 → 工事監理

最初の優先度調査は、どの棟から手をつけるかを決めるためのものです。私が関わった学校では、文部科学省の計画に合わせて平成19年度から21年度にかけて行っていました。

判断の材料は、構造耐震指標のIs値と、保有水平耐力にかかわるCTU・SD値です。文部科学省の指針では、鉄筋コンクリート造の校舎を安全と判定する目安をIs値0.7以上としています。ただ、数字の低い順に機械的に並べるわけではなく、建物の使われ方や改築の予定も含めて総合的に判断し、年に2〜3棟ずつ進めていきました。

その途中で、東日本大震災が起きています。

この流れの中では、診断は「結果を出して終わり」の業務ではありませんでした。診断で出た数字と現況の把握が、そのまま補強計画の前提になり、実施設計に引き継がれる。発注する側の感覚としても、診断は補強計画と実施設計の一部という扱いでした。

告示も、診断と補強設計を並べて持っている

告示第670号の略算表は、この流れと同じ形をしています。耐震診断と耐震改修設計が、別の行で並んでいるのです。

鉄骨造・鉄筋コンクリート造・鉄骨鉄筋コンクリート造で並べると、こうなります。

床面積耐震診断耐震改修設計計診断の割合
500㎡29015044065.9%
1,000㎡38023061062.3%
3,000㎡6004301,03058.3%
7,500㎡8807501,63054.0%

単位は人・時間。耐震改修設計は、告示の表記では「耐震改修に係る設計(構造に係るものに限る。)」です。

どの規模でも、診断のほうが補強の設計より重い。入口のほうが、半分を超えています。

義務化の線にかかる3,000㎡の校舎で金額にしてみます。条件はこれまでと同じく、技師(C)42,500円/日(令和8年3月適用)を8時間で割った人件費単価。ただし経費の倍数は、告示第8号の1.1ではなく第670号の標準である1.0を使います。技術料等経費・検査費・特別経費・消費税は含めない下限の目安です。

  • 耐震診断 600人・時間 → 約638万円
  • 耐震改修設計 430人・時間 → 約457万円

新築の設計と監理では、設計が重く監理が軽い形でした。耐震では、前半が重い形になっています。

なぜ入口のほうが重いのか

告示が定める診断の標準業務を読むと、理由が見えてきます。

建築物の概要について、設計図書、建築関係法令に基づく過去の申請書等により確認する

目視又は計測により、構造耐力上主要な部分の配置、形状、寸法、接合の緊結の度、劣化状況及び材料強度(中略)に関する実地調査を行う

引用元 平成27年国土交通省告示第670号 別添一(予備調査・実地調査)

図面を読み、現物と照らし、材料の強さまで確かめる。補強の設計は、この確かめた現況の上に乗ります。診断で拾えなかったものは、実施設計か工事のどこかで出てくる。前半に手間が寄るのは、後半の手戻りを先に払っているからだと思います。

一方で、この表に入っていないものもあります。コンクリートの圧縮強度試験のように第三者に委託する検査は「検査費」として人・時間の外に別建てで、図面が残っていない場合の設計図書の復元も、標準業務の外に置かれています。

なお、改修の設計料は略算表で引けないというのが前回の話でした。改修の中で、耐震だけは表がある。告示第8号の解説にも、略算の対象は「新築及び耐震診断・耐震改修」に限られると書かれています。

見積りを取ると、高く出る

当時、診断は見積りを取ると高く出る、という認識がありました。それは、現地でのコア抜きや中性化、圧縮強度試験など現場作業が伴うことがあったためです。そのため設計事務所だけの見積りに頼らず、コア抜き事業者など専門業種に見積もり依頼した金額等で算定して、予算を組んでいた記憶があります。

いま表を見ると、ここに告示の組み立てがそのまま出ています。コア抜きや中性化試験、圧縮強度試験は、表の人・時間ではなく「検査費」として別に数えるものです。設計事務所の見積りが高く見えたのは、診断の手間と検査の費用がひとまとめに乗っていたからで、分けて数えれば、どこが重いのかが見えてきます。

ひと回りしたあとに残るもの

公共の診断は、ほぼ残っていません。代わりに増えたのは、別の種類の「確かめる」仕事です。

ひとつは規制です。石綿(アスベスト)は法改正で解体・改修前の事前調査と結果の報告が義務になり、調査する人にも資格が求められるようになりました。

もうひとつは老朽化です。耐震化を終えた建物も、補強した時点から年数を重ねています。構造体の耐震化率が99.9%でも、公立小中学校の非構造部材の耐震対策実施率は71.0%にとどまっています。これから必要になるのは、耐えられるかを確かめる診断ではなく、どれだけ傷んでいるかを確かめる劣化度調査です。

劣化度調査には、耐震診断のような略算表はありません。

耐震診断は、補強設計の入口として数えられてきました。次の入口は劣化度調査で、その数え方はまだ誰も表にしていない。ひと回りした今、数える側が考えておくべきなのはそこだと思います。


参照:平成27年国土交通省告示第670号(平成27年5月25日)/令和6年国土交通省告示第8号 解説/官庁施設の設計業務等積算要領(令和6年3月26日改定)/建築物の耐震改修の促進に関する法律(平成25年11月25日改正法施行)/学校施設耐震化推進指針(文部科学省)/公立学校施設の耐震改修状況フォローアップ調査(文部科学省、令和7年4月1日現在)/設計業務委託等技術者単価(国土交通省、令和8年3月適用)

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