発注者が公開した業務人・時間数は1,657.17。これに単価と経費の率を掛けて委託料を計算し直したら、発注者の金額と1,000円ずれた。どちらかが計算を間違えたのか、それとも数えている桁が違うのか。
ずれていたのは、私が作った計算ツールのほうでした。
公開した数字から、同じ金額に戻れない
設計料の算定では、最初に業務人・時間数、つまり何時間かかる仕事かという量が決まります。そこに人件費の単価を掛けて直接人件費を出し、諸経費と技術料等経費を上乗せして、千円未満を切り捨て、消費税を足す。金額はこの順番で決まります。
公共の発注では、この業務人・時間数が仕様書などで公開されます。受け取った側は、そこから委託料を自分で計算し直せる。同じ数字から同じ金額に戻れることが、公開する意味です。
私のツールは、画面と帳票には人・時間を小数第2位まで表示していました。ところが内部では、丸める前の値、小数点以下十数桁の数字のまま金額を計算していた。表示している数字と、計算に使っている数字が違っていたわけです。
受注者の立場で、公開した値から逆算してみて、これに気づきました。

数十円の差が、千円になる
内訳が4項目ある場合で試算してみます。単価は技師(C)の42,500円/日を8時間で割った5,312.5円/時間、諸経費は直接人件費の1.1倍、技術料等経費は(直接人件費+諸経費)の0.15倍としています。
| 丸めずに足す | 丸めてから足す | |
|---|---|---|
| 業務人・時間数(合計) | 1,657.1896 | 1,657.17 |
| 直接人件費 | 8,803,819円 | 8,803,715円 |
| 経費を足した合計(千円止め前) | 21,261,221円 | 21,260,971円 |
| 業務価格(千円止め) | 21,261,000円 | 21,260,000円 |
人・時間の差は0.02時間に届きません。1項目ごとの丸めの差は、金額にすれば最大でも数十円です。それが諸経費と技術料等経費を通るたびに膨らんで、千円止めの手前では250円の差になる。そしてちょうど千円の境目をまたぐと、差は1,000円になります。
金額としては小さい。でも、同じ数字から出発して同じ答えにならないのは、積算としては誤りです。誰がやっても同じ答えになることが積算の正しさだと、これまで書いてきました。そこにツール自身が反していました。

直すのは、計算式ではなかった
式そのものは基準どおりで、間違っていません。千円止めも消費税の扱いも合っている。
決まっていなかったのは、人・時間を何桁で持つかです。金額の端数処理には決まりがあっても、途中の人・時間をどこで丸めるかまでは、基準は決めていません。
そして、相手は電卓かExcelで計算し直します。こちらの内部で何桁持っているかは、相手からは見えない。見えない桁で計算した金額は、相手にとっては再現できない金額です。
桁を増やすのでも、最後だけ合わせるのでもなく
直し方は三つ考えました。
一つ目は、帳票に載せる桁を増やすこと。小数第4位まで出せば差は縮みます。でも、小数第4位の人・時間を仕様書に載せても、それで計算する人はいません。
二つ目は、最後の金額だけを、公開した値から計算し直すこと。金額は合います。ただ今度は、内訳を足しても合計にならなくなる。これでは別のところで説明がつかなくなります。
採ったのは三つ目です。内訳の各項目を小数第2位で丸め、丸めた値を足して合計にし、その合計で金額を計算する。公開する数字と、計算に使う数字を同じにしました。
精度を上げたのではありません。相手と揃えました。

丸める場所を、1か所にした
丸めのルールは1か所にまとめて、新築の設計でも改修でも工事監理でも、同じルールを通るようにしました。業務ごとに別々に丸めていると、どこかで必ず揃わなくなるからです。
画面には検算の欄を常に出しています。出てきた金額から人・時間を逆に計算して、積み上げた値とどれだけ離れているかを表示する。千円止めの分だけは必ず離れますが、それ以上離れていたら、どこかがおかしいということです。
最後に、ありうる数字を200万通り機械的に試して、公開した人・時間から委託料まで1円単位で戻れることを確かめました。
端数より大きい誤りが、先に出てきた
1円まで合わせると決めたので、基準の原文とツールの中の表を、全ページ突き合わせ直しました。そうしたら、端数どころではない誤りが出てきました。
面積の区分が3段に分かれている類型を読み違えていて、それより後ろの類型の係数が、全部1行ずつずれていた。原文では2項目をまとめて0.01としている欄に、それぞれ0.01を入れていて、合計が1.00ではなく1.01になっていた。隣り合う2項目の率を取り違えていた箇所や、大きい面積の区分に切り替わる分岐が抜けている箇所もありました。
どれも計算式の誤りではありません。表を写す段階の誤りです。係数を原文から機械的に抜き出して照合し直し、全件を一致させました。
行が1つずれていれば、結果は端数の比ではなく変わります。それでも計算そのものはエラーを出さずに動くので、使っているだけでは気づけません。

見積書を受け取る側から見ると
これは設計料に限った話ではないと思っています。人・時間でも数量でも単価でも、相手が計算し直す数字は、内部で持つ桁を公開する桁に揃える。見せている数字で計算していなければ、見せている意味がありません。
見積書を受け取る側から見れば、確かめることは二つです。内訳を足して合計になっているか。示された人・時間から、金額まで戻れるか。
戻れる見積書は、高いか安いかを検証できます。戻れない見積書は、その手前で止まってしまいます。計算のツールに求められているのも、計算の速さより、誰が計算し直しても同じ金額に戻れることのほうだと思います。
参照:令和6年国土交通省告示第8号/国土交通省「設計、工事監理等に係る業務報酬基準について」/国土交通省「改正業務報酬基準説明会説明資料」(令和6年)/「令和8年3月から適用する設計業務委託等技術者単価」(2026年9月25日参照)