人・時間を金額にする式は、6行しかない

事務所1,000㎡の設計を全部頼むと、1,925.70人・時間。金額にすると24,706,000円です。

技師(C)の時間単価5,312.5円を掛けただけなら、10,230,281円にしかなりません。残りの約1,448万円は、どこから来たのか。

業務細分率の記事では、頼む業務の人・時間を出すところまでを分解しました。今回はその次の段、人・時間を金額にするところです。

目次

式は6行

作り直したツールでは、人・時間を金額にする処理を1か所にまとめています。新築でも改修でも工事監理でも、最後は全部ここを通ります。

function toFee(hours, unitDay, misc, tech, special){
  const unitHour = unitDay / 8;                    // 日額を時間単価に
  const A = floor(r2(hours) * unitHour);           // 直接人件費
  const B = floor(A * misc);                       // 諸経費
  const C = floor((A + B) * tech);                 // 技術料等経費
  const D = special || 0;                          // 特別経費
  const Y = floor((A + B + C + D) / 1000) * 1000;  // 業務価格(千円止め)
  const J = Math.round(Y * 0.10);                  // 消費税等相当額
  return { A, B, C, D, Y, J, K: Y + J };
}

中身は、掛けて、足して、千円未満を切り捨てるだけです。1,925.70人・時間を通すと、こうなります。

費目計算金額
A 直接人件費1,925.70 × 5,312.5円10,230,281円
B 諸経費A × 1.111,253,309円
C 技術料等経費(A+B)× 0.153,222,538円
D 特別経費実費0円
Y 業務価格千円止め24,706,000円
J 消費税等相当額Y × 10%2,470,600円
委託料Y+J27,176,600円

掛けているのは、単価ではなく2.415

B と C を A にまとめると、(1+1.1)×(1+0.15)= 2.415。人・時間に掛けているのは、実質この倍率です。

1人・時間あたりにすると、5,312.5円 × 2.415 ≒ 12,830円。設計者の人件費そのものは、業務価格の41.4%にあたります。

「設計料が時給の何倍にもなっている」と見えるかもしれません。ただ、事務所の家賃も、ソフトの使用料も、打合せに行く車も、AにもBにも出てこない時間の分も、どこかで払われています。それを人件費に対する率で載せているのがBとCです。

1枚の木の板が、下に重ねた薄い板2枚に持ち上げられている

1.1は、どこから来たのか

この1.1と0.15を、なぜその値なのか考えたことはあります。けれど、どこにも書いていない。発注の場面で説明を求められることもありません。

調べてみると、1.1のほうは辿れました。

建築士事務所の業務報酬基準(国の告示)は、略算方法で「直接経費及び間接経費の合計額」を直接人件費の何倍とするかを決めています。平成21年の告示15号では1.0でした。それが2018年、全国の建築士事務所へのアンケート(回答658事務所、6,077プロジェクト)で「告示で示す割合が実態と合っていない」とされ、平成31年の告示98号で1.1に改められています。令和6年の告示8号でも1.1のままです。

国の官庁営繕の積算基準は、この業務報酬基準にもとづいて諸経費率を1.1としています。つまり1.1は、事務所が実際にかけている経費を調べて出てきた値です。説明資料には、事務所ごとに自分の割合を使ってもかまわないとも書かれています。

0.15のほうは、辿れませんでした。告示は技術料等経費を「技術力、創造力等の対価」と定義しているだけで、率は決めていません。0.15は官庁営繕の基準が置いている標準値で、その由来は公表資料の中には見当たりませんでした。

もう1つ、耐震診断と耐震改修設計は、諸経費率1.0・技術料等経費率0.20です。こちらは別の告示(平成27年告示670号)にもとづいていて、その告示が改正されていないため変わっていない。2018年の調査で1.1に上がる前の1.0が、耐震の側には残っている形です。倍率にすると2.400。6つのタブの記事で見た「2.400≒2.415」は、ここから来ていました。

2本の同じ木の物差し。片方は駒が鉛筆の印から少し右へ動き、もう片方は印の位置に残っている

特別経費だけは、率を通らない

Dの特別経費は、BとCの後ろで足しています。率は掛かりません。

告示の言葉では「建築主等の特別の依頼に基づいて必要となるその他の費用」。耐震診断のコア抜きや、今ならアスベストの調査費がここに入ります。

これを人・時間の側に混ぜると、2.415倍に膨らみます。30万円の調査費なら、約72万円。実費は実費のまま、行として足す。ツールでは特別経費を1件ずつ摘要付きの行で入れ、合計だけをDに渡しています。

同じ高さに積まれた木の駒の山の横に、紐で結んだ小箱が1つだけ離して置かれている

検算のときも、特別経費は先に外します。業務価格からDを引き、2.415と時間単価で割ると、人・時間に戻ります。24,706,000円 ÷ 2.415 ÷ 5,312.5円 = 1,925.69。千円止めで切り捨てた分(最大で約0.08人・時間)だけ、積み上げた値から離れます。

1円が落ちる

式は短いのですが、1か所だけつまずきました。

2.80人・時間 × 5,312.5円は、ちょうど14,875円です。ところがプログラムでそのまま掛けると、14,874.999…になります。小数を2進数で持つ計算機の癖で、これを切り捨てると14,874円。1円落ちます。

そこで、切り捨ての前に有効12桁で一度そろえてから切り捨てるようにしました。

const floor = x => Math.floor(Number(x.toPrecision(12)));

1円の話ですが、端数の記事で書いたとおり、千円の境目をまたげば1,000円になります。相手の電卓と同じ答えを出すための1行です。

見積書の「経費」は、どう書かれているか

民間の見積では、経費は「一式」で書かれていることが多くありました。一方で、公表されている経費率を使って計算してくる設計事務所もありました。

率で書いてあれば、さっきの割り算で人・時間に戻れます。一式だと、戻れません。

自分の見積に当てはめるなら

手元の設計料の見積を1つ開いて、特別経費(旅費や調査費など)を除いた金額を、2.415と5,312.5円で割ってみてください。

出てきた人・時間は、その業務の中身と見合っていますか。

公共の算定では、経費は人件費の後ろに率で付いてくるだけです。比べるべきは率でも金額でもなく、最初の人・時間のほうだと思っています。


参照:業務報酬基準(告示15号)の改正に係るこれまでの検討のとりまとめ(国土交通省住宅局、2018年8月24日)/新しい業務報酬基準(令和6年国土交通省告示第8号)について 改正業務報酬基準説明会説明資料(国土交通省)/官庁施設の設計業務等積算基準等の改定について(国土交通省大臣官房官庁営繕部、2024年1月9日)/令和8年3月から適用する設計業務委託等技術者単価(国土交通省、令和8年2月17日)

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