別表に、円が一つも出てこない
設計委託の話になると、最初に聞かれるのは金額です。「この規模だと、いくらくらいになりますか」。
その根拠にあたるはずの令和6年国土交通省告示第8号の別表を開くと、少し面食らいます。たとえば教育施設の別表で、床面積2,000㎡の「設計・総合」の欄に入っている数字は3,200。単位は円ではありません。**人・時間**です。別表のどこを探しても、金額は出てきません。
告示が国として定めているのは、この用途・この規模の建物にこの業務をやると、およそ何時間かかるか、という量です。値段そのものは決めていない。
ここを取り違えたまま「告示に基づいて算定した」と言うと、後で必ず食い違います。逆に、ここさえ押さえれば、算定の全体像はかなり単純な形に見えてきます。
金額に変わるのは、最後の一回だけ
略算方法の式は、二段構えになっています。
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直接人件費 = 業務量(業務人・時間数) × 人件費単価
業務報酬 = 直接人件費 × 2.1 + 特別経費 + 技術料等経費 + 消費税相当額
円が登場するのは、一行目の掛け算です。それより手前は、すべて時間の話でしかない。
二行目の2.1も金額ではなく比率です。直接経費と間接経費の合計を直接人件費の1.1倍とみなすのが標準で、これに直接人件費そのもの(1.0)を足して2.1になる。単価がいくらであっても、この係数は動きません。
つまり告示第8号は、**手間の量を決める部分と、その手間をいくらで見るかを決める部分が、はっきり分かれている基準**です。前者は全国共通で、後者は当事者側に委ねられている。
補正は、すべて時間の側で起きる

面白いのは、算定を複雑にしている要素が、例外なく時間の側にぶら下がっていることです。
– **難易度係数**:標準業務人・時間数に乗じる。令和6年の改正で、複数の観点に該当する場合は該当するすべての係数を乗じられるようになった(従来は一つだけ)
– **複合化係数**:複数用途の建築物で、合算した業務量に乗じる
– **業務比率**:基本設計だけ、実施設計等だけを行う場合に業務量へ乗じる(第1類・総合なら28%と72%)
– **追加的な業務**:標準業務に含まれない分を、業務人・時間数として加算する
いずれも掛けたり足したりする相手は人・時間です。金額の側では、何も起きていません。単価に係数を掛ける規定は、告示のどこにもない。
だから、計算は最後まで時間で持つ
自分で算定ツールを組むとき、この構造がそのまま設計の指示になります。
**円に落とすのは、出口で一度だけ。** 途中で金額に変換すると、そこから先は補正を掛け直せなくなります。難易度係数を一つ足したい、業務比率を変えたい、というときに、時間のまま持っていれば掛けるだけで済む。金額に落とした後だと、どこで丸めたのか分からない数字を追いかけることになります。
役割を分けると、こうなります。
– **別表**:動かないデータ。用途類型と床面積で引く二次元の表
– **係数**:掛け算の連鎖。順番を変えても結果は変わらない
– **人件費単価**:外から与えるパラメータ。年度でも発注者でも変わる
– **丸め**:出口で一度だけ
この分け方の効きどころは、単価が変わったときです。表にもロジックにも触らず、パラメータを差し替えるだけで済む。逆に、単価を計算式の中に埋め込んでしまうと、毎年ツールを作り直すことになります。
自治体ごとの運用差が出るのも、多くは表そのものではなく、**単価の決め方**と**どの補正まで認めるか**の側です。土台が全国共通なのは、そこが分離されているからです。
見落としやすい線が三つ
最後に、略算表を使うときに引っかかりやすい境界を挙げておきます。
**略算方法は新築が前提です。** 増築・改築や用途変更の報酬算定に、そのまま適用することはできません。改修は実費加算方法の側の話になります。
**略算表の床面積の範囲外には使えません。** 範囲内で表に載っていない面積であれば、線形補間などで算定して差し支えないとされています。範囲そのものを外れた規模は、別の方法が要る。
**略算方法で乗じる人件費単価は、技師(C)相当が想定されています。** 単価の水準を議論するときに、ここが揃っていないと話が噛み合いません。
参照:令和6年国土交通省告示第8号/技術的助言(令和6年1月9日 国住指第307号)/国土交通省「改正業務報酬基準説明会 説明資料」。基準は改定されることがあるため、実務で用いる際は最新版を確認してください。