同じ計算を、担当者ごとに違うExcelでやっていました
設計業務委託料の算定を、Excelでやっている現場は多いと思います。
私のところもそうでした。誰かが昔つくったファイルがあって、新しい案件が来るたびに、それをコピーして数字を書き換える。前回の案件のシートを開いて、似ている部分を残しながら、違う部分だけ直していく。
やっかいだったのは、同じ種類の算定なのに、かかる時間が案件ごとにまるで違ったことです。すんなり終わる案件もあれば、どのファイルを元にすればいいのかを探すところから始まって、半日が溶ける案件もある。
計算そのものが難しいわけではありません。時間を食っているのは、いつも計算の手前でした。
この方法には、はっきりした問題が三つありました。
一つ目は、加工の積み重ねです。コピーして直す、を繰り返すうちに、元のファイルが何だったのか誰も覚えていない状態になります。
二つ目は、間違いが混ざることです。実際に見つけたのは、次の三種類でした。
- 数式セルへの手打ち混入。 式が入っているはずのセルに、いつの間にか直接数字が打たれている
- 参照先のずれ。 前の案件のシートや、別表の古い行を参照したままになっている
- 料率・単価の据え置き。 基準が改定されているのに、改定前の値で計算されている

どれも、ファイルを開いただけでは気づきません。数字はちゃんと入っていて、合計も出ているからです。上書きした本人にも自覚がないので、次に使う人はその数字を正しいものとして扱ってしまいます。
三つ目が一番厄介でした。人によって使い方が違っていたのです。
同じファイルを渡しても、Aさんは別表を全部埋めてから合計を出し、Bさんは合計から逆算して別表を整える。どちらも間違ってはいません。ただ、出てくる答えが違う。
「合っている計算」と「同じ答えが出る計算」は別のもの
ここで気づいたことがあります。
Excelの数式そのものは、たいてい合っているのです。要領に書いてある式を、そのまま入れてあるのだから当然です。検算すれば正しい。
それでも結果がばらつく。理由は、計算式の外側にあります。どの数値をどこから拾うか、どの順番で埋めるか、判断が必要な箇所をどう解釈するか。 ここが人に委ねられている限り、式が正しくても答えは揃いません。
積算の書類は、最終的に相手に説明するものです。「なぜこの金額になるのか」を問われたとき、根拠を示せなければ意味がない。担当者が変われば答えが変わる状態では、その説明が成立しません。
だから、目指すべきは「正しい計算式を用意すること」ではなく、「誰がやっても同じ答えが出る手順を用意すること」でした。

なお、そもそも設計料の算定が何を数えているのかという話には、ここでは立ち入りません。別に一本書いています。
決めた要件は三つだけ
作り直すにあたって、要件を三つに絞りました。
判断の余地を残さないこと。 入力する箇所を限定して、それ以外は自動で埋まるようにする。使う人が「どこから埋めようか」と考える余地をなくします。
インストールが要らないこと。 環境を選ぶツールは、結局その人しか使わないものになります。全員が同じものを使えないと、ばらつきは解消しません。
基準が改定されたとき、一箇所直せば済むこと。 要領は改定されます。改定のたびに全ファイルを直して回るような構造だと、また元の状態に戻ります。
この三つを満たす形として選んだのが、HTMLファイル一つで完結するツールでした。
なぜ単一HTMLファイルだったのか
理由は消去法です。
実行ファイルは、環境によっては配れません。データベースソフトを使う方式は、入っている人と入っていない人が出ます。表計算ソフトに戻るなら、そもそもの問題が解決していません。
一方、ブラウザはどの端末にも入っています。HTMLファイルを一つ渡せば、ダブルクリックで開く。インストールも設定も要らない。
さらに、単一ファイルであることには別の利点がありました。丸ごと配れて、丸ごと差し替えられる。 改定があったときは、新しいファイルを渡すだけで全員が同じ版に揃います。バージョンが混ざる余地がありません。
もう一つ、内部の作りで決めたことがあります。料率や係数の表を、計算のロジックから切り離して持つことです。改定で変わるのは、たいてい数値の方です。数値がロジックの中に埋め込まれていると、改定のたびにコードを追いかけることになる。表として外に出しておけば、そこだけ差し替えれば済みます。
これは、要件の三つ目に直接効いています。そして、さきほどの「料率・単価の据え置き」というミスが、構造として起きなくなります。
業務の種類ごとに、話は変わる
ここまでは全体の考え方です。ただ、実際に作ってみると、業務の種類ごとに事情がかなり違いました。
新築の設計と、改修の設計では、根拠になる考え方が違います。耐震診断には診断固有の項目があり、解体は解体で別の組み立てになります。工事監理は設計とは別に算定します。
同じ「設計監理業務委託料の算定」という名前でも、中身は別物に近い。ここを一つの記事にまとめると、どれも中途半端になります。
そこで、業務の種類ごとに分けて書いていくことにしました。
- 新築設計の場合
- 改修設計の場合
- 耐震診断の場合
- 解体の場合
- 工事監理の場合
それぞれで「何が判断の余地になっていたか」「どう潰したか」を書いていきます。共通する考え方は今回の三つの要件で、個別の話はそこにぶら下がる形になります。
まとめ
積算ツールをつくる話は、突き詰めると計算の話ではありませんでした。
計算式は要領に書いてあります。それを写すだけなら誰でもできる。難しいのは、その式に至るまでの判断を、どこまで人から取り上げられるかでした。
判断を残せば、その人の腕次第になります。判断を消せば、誰がやっても同じ答えになる。積算の書類に求められるのは後者です。
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